今、拙者は幸姫と向き合い正座している。

幸姫の顔は真剣そのもの。
どうやら、やる気はあるようでござるな。


「幸姫、これより花嫁修行を始めまする」
「うんっ!!」

「…と、申しても、幸姫はまだまだ未熟…いきなり難しい事はさせませぬ故、ご心配召されるな」
「難しい事!?どんとこいっ!!」
「幸姫、拙者の話ちゃんと聞いてたでござるか?貴女はまだ未熟と申しておろう!?」


やれやれ、幸先不安でござるよ…。
本当にやり遂げられるのか、拙者の方が心配でござる。


「まずは基本中の基本、料理・裁縫・作法…この三つをこなして頂きまする」
「料理?それなら任せて!!私、料理は得意なの!」
「それは完璧な料理を作ってから申して下され」


張り切る分には構いませぬが、どうか調理道具を壊さないで下されよ。

拙者達の命に関わりまする。


「疑り深いわね…本当なんだから!」
「慎重にもなりまするよ、幸姫の場合では」
「女人は美味しいって言ってくれたもん」
「それは、七日前の事でござるか?」
「…うん、何で知ってるの?」
「…………!!」


こ、殺される…!
この姫に、料理で殺される…!!

七日前とは、二人の女人が食中毒を起こし倒れた日ではないか…!!


「ゆ、幸姫…念のために問いまする。…料理のさしすせそ、全て申して下され」
「…?何?料理のさしすせそって」


駄目だ、殺られる…!
得意気な顔でなんと恐ろしい嘘を…この姫、侮れぬ。


「あっ、あっ、思い出した!!あれでしょ?サンマ・汁・酸っぱい・千切り・惣菜!」
「全然違いまする!一つも合ってござりませぬよ!!」

「あれぇ?じゃあ何よ」
「砂糖・塩・酢・醤油・味噌でござる!」

「…んんん?味噌はともかく、何でせが醤油なの?理解できない」
「さっきまで貴女、料理は得意とか申していたでござろう!?」


これは、教えるのに大変な労力を要するぞ…。

やはり、引き受けるのではなかった…。