「花嫁修行?幸姫がでござるか?」

「あぁ、突然やりたいと言い出したんだ」


呼ばれて来てみれば、政幸殿は真剣な面持ちでそう拙者に申してきた。

幸姫が花嫁修行?


「何故突然その様な事を…?」
「うん、この間…友の峯本家へ幸を連れて行ったのだ。その時にどうやら、峯本家の長女、晁子に何か言われたらしい。帰ってから突然、「花嫁修行がしたい!」とか駄々をこねてな…困っておるのだ」


なんと、峯本家とな。
あそこは、由緒正しき華道の道場ではござらぬか。


「…それで、拙者にそれを伝えてどうしろと申される」
「頼む霧助、幸の花嫁修行に付き合ってくれ」
「やはりお守りでござるか!!」


勘弁して頂きたい、拙者は姑ではござらぬよ?
忍でござる、花嫁修行等専門外でござる!


「政幸殿、拙者の専門職を何だと思っておりまする」
「ん?幸のお守りだろう?」
「忍でござるよ!!」

「とにかく、幸がせっかくその気になったのだから、この際徹底的に付き合ってやろうではないか」
「全く…政幸殿は幸姫に甘過ぎでござる」


妹想いもここまでくると、厄介でしかござらぬ。

拙者は、政幸殿の与える任務もしつつ、幸姫の花嫁修行にまで付き合わねばならぬのか…。

この兄妹は、一体どこまで拙者を働かせるおつもりだ。
このままではいずれ、過労死してしまう。


「案ずるな、俺も付き合う」
「案じまする、あの幸姫が相手だと」

「否めぬのが悔しいな…」
「笑っておられる場合ではござりませぬぞ政幸殿!」


拙者は全く笑えませぬ。

あの幸姫でござるよ?
以前、台所の釜鍋を泥団子でいっぱいにして「宝釜♪」とかぬかした、あの幸姫でござるよ?


「頑張ってくれ、霧助」
「勘弁して下され…!」


拙者は、これから起こりうる惨状を頭に浮かべ、己の目元を手で覆った。