静かだ…静かすぎる。

それもそのはず、今日は幸姫が政幸殿と出掛けられておられる。
拙者は何ヵ月ぶりの休暇でござる。

急に休暇を言い渡された時は驚いたが、これはこれでありがたい。

久々の休暇を思う存分満喫す…


「霧助えぇぇぇ!!」


―――ドスッ!!

「グッハ!!」


物凄い勢いで、背中に衝撃が走った。
すっかり油断していた…幸姫に背後をとられるとは…。

というか、何故幸姫がここにおるのだ。


「幸姫…如何なされた…」
「何で!?どうしてなの霧助!!」


背中の痛みに耐えつつ問うと、幸姫は涙声で拙者を怒鳴った。
何事でござる…むしろ、何故突進してくるのかこちらが伺いたいものでござる。


「何で餅吉を返しちゃたの!?」


…なるほど…そう言うことか…。
もう気付かれてしまわれたか、案外早かったでござるな。


「元々、あの犬は飼い犬でござった。拙者は飼い主に返しただけでござる」
「どうして私に言ってくれなかったの!?」
「…それは、餅吉が可哀想だと思ったからでござるよ」
「…え?」


予想外の応えだったのか、ポカンとした幸姫。
大方、「幸姫が悲しむと思い…」とか返ってくると思ったのでござろう。


「幸姫、拙者も生き物を飼う身…あのまま捜す飼い主を放っておく訳には参りませぬ。一刻も早く飼い主の元へ返さねばならなかったのでござるよ」
「…………」

「突然の別れにお心を痛めるのは、元より承知しており申した。幸姫の気が済むまで、何とでもお叱り下され」


頭を下げて、土下座する。
しかし、いくら待っても幸姫から罵声は来なかった。

そのかわり……。


「…ずるいよ……そんなこと言われたら、何も言えないじゃんか…」
「幸姫…」


拙者は、静かに涙を流す幸姫を抱き締めた。



「さよなら…餅吉…」