「餅吉~?餅吉どこ~?」


朝から、幸姫はあの調子でござる。
もう太陽は沈みかけ、夕暮れ時と申すのに…。


「ねぇ、霧助。餅吉見掛けなかった?」
「知りませぬ、どっかその辺で穴でも掘ってるのでは?」
「もう、真面目に答えてよ!」


幸姫はぷりぷりと拙者の部屋を探る。
…人の仮部屋で何しておるかこの姫は。


「餅吉~どこ~?」
「そこは拙者の箪笥でござる幸姫」


そんな狭い所に入る訳ないでござろう。

…そもそも、もう餅吉は…。


「おい、霧助」
「政幸殿!」


勢揃いでござるな、一体何でござろう?


「お前宛に文がきているぞ」
「拙者に…?」
「何々?見せてー!」
「人の文を勝手に読まないで下され幸姫!」

「若い娘からだ」
「ちょっとどういうこと霧助!」
「な、何がどういうことでござる!?」


何をそんなに怒っておられる、たかが文位で…。
若い娘からとな…ぬ?


「もしや…」

「…?どうした、幸」
「…むー…」


拙者が文を開くと、お香の香りが広がった。

『先日は助かりました。豆太郎も元気です。貴方の事は、一生忘れません』

短く綴られた文、拙者は黙って懐に入れた。


「何て書いてあったの?」
「…幸姫には関係ござりませぬ」
「………」


拙者は黙りこむ二人を残し、その場を去った。