任務帰り、拙者は城下町に寄った。
いつもの賑わいをみせる町中で、必要な道具を買い揃える。


「誰か…誰かウチの犬を知りませんかー!」
「…?何事でござる」


道の真ん中で、若い娘が大声を張り上げておる。


「あぁ、まだあの子いたのかい」


そう言って店の奥から現れた店主。
その表情からして、あの娘は随分長い間叫んでおるのだろう。


「いや、何でも逃げてしまった飼い犬を探しているみたいでね」
「なんと、飼い犬とな…」


また犬か…何でござるか全く、みんなして犬好きでござるな。

拙者は顔をしかめて、商品の火薬袋選ぶ。


「何だったけな…確か、毛色は茶色く種類は柴犬だと…」


―――ぼとっ。


拙者は持ち上げた火薬袋を落とした。

「…い、今…何と申された?」
「ん?だから、茶色くて種類は柴犬…」
「何と言うことでござる!!」
「な、何だい、お客さん、心当たりがあるのか」
「あるもなにも、その犬はもしや…こうしてはおれぬ!」


拙者は店を出た。

向かう先は、もちろん屋敷だ。
あの迷い犬…もしや…。

拙者の嫌な予感も、この時ばかりは当たって欲しくはなかった。


拙者は、幸姫の目を盗み餅吉を連れ出した。
拙者の腕に噛み付き抵抗する毛玉だったが、生憎甲冑に噛みつかれても痛くも痒くもござらぬ。


「誰か…誰か知りませんかー!」
「いた…」


未だに声を張り上げる娘を見付け、拙者は毛玉を腕に娘の元へ歩み寄った…。