「餅吉、おすわり!」
「ワンッ!」
「餅吉、お手!」
「ワンッ!」
「餅吉、宙返り!」
「くぅ~ん…」

「犬相手に何無茶な事を申されておる幸姫!」
「えぇ~」


幸姫が毛玉を拾ってきて、幾日か経った。

あの毛玉がきてから、拙者の仕事は一応捗っておる。
理由は、幸姫があの毛玉と戯れるので、拙者には今までなかった空き時間が生まれたのだ。

おかげで、この所体の調子も非常に良い。


「餅吉、散歩に行こう!」
「ワンッ♪」

「幸姫、屋敷の中だけでござるよ」
「わかってる!」


あれ程までに…よく体力が持つでござるな。
拙者には不可能、というより拙者は犬猫が苦手でござる。


「拙者には、夜叉丸だけで充分でござる」


木の上で夜叉丸とくつろぎながら、拙者は走り回る幸姫を見下ろした。


「餅吉、威嚇!」
「ワンッ!ウゥゥーッ!!」

「ピィーッ!!」
「幸姫、お止め下され!!それも、夜叉丸に喧嘩を吹っ掛ける等言語道断!」
「はぁーい…」

「そもそも、何でござるか威嚇とは!」
「え?芸だけど?」
「な、なんと!?幸姫、それは芸ではござらぬ!!」

「ピィーッ!!」
「ワンッ!ワンッ!」

「これ、やめぬか!!夜叉丸、戻れ夜叉丸!」
「負けるな餅吉ー!」
「煽るでない幸姫!!」



前言撤回、やはり拙者には休まる時はない。

むしろ、余計に疲れたでござる。


「ワンッワンッ!!」
「ピィーッ!」
「いっけぇー!」

「だからやめぬかーッ!!」