「なに、迷い犬?」
「そ♪庭で見付けたの。餅吉って言うのよ」
「も、餅吉…」


政幸殿の部屋で、拙者と幸姫、間に迷い犬を挟んで政幸殿と対面している。
拙者は隣の毛玉が膝に乗ろうとするのを、必死に阻止していた。


「ねぇ、兄上、この子飼ってもいいでしょ?」
「う~ん…」

「しっ、やめぬかこら!しっしっ」
「ワンッ♪」


ぬ?何故拙者は何も申さぬかと?

うぬ、この件に関しては、屋敷の当主である政幸殿がご決断されること故、あくまで忍の身である拙者には、何も申せぬのでござるよ。


「…って、拙者の忍装を引っ張るでない!この毛玉!」
「ひっどーい、霧助!ちゃんと名前があるんだから餅吉って呼んでよ!」
「なんと、拙者に名を呼んで欲しいとな!では呼んで差し上げよう、この餅野郎!!離さぬかッ!!」
「何それ、全然違う!」

「これ、やめぬか二人共」


拙者の忍装は玩具ではござらぬ!
ヒラヒラしているとは言え、引っ張るものではないのだぞ!


「幸よ、飼うのは構わぬが、世話はしっかりみるのだぞ」
「はーい♪やったぁ!」

「や・め・ぬ・かぁ~!!」
「ウゥゥーッ!!」

「餅吉、おいで♪」
「ワンッ♪」
「ぐわっ!!」


突然離され反動で倒れた。
犬一匹になんたる様だ…不覚!


「拙者は一切面倒はみらぬぞ、幸姫」
「わかってますよ~だ!」


すっかり伸びてしまった忍装を正しながら、拙者は幸姫に念を押した。

全く…毛玉の涎で拙者の忍装が台無しでござる。
どうしてくれようか、この毛玉…。


「あははっ、くすぐったいよ餅吉!」
「ワンッ、ワンッ!!」

「…………」


…ま、幸姫が嬉しそうでなによりでござる。
今日の所は許すと致そう。