墨の香りと、お香の匂いが静粛と共に部屋に広がる。

戦地にいる拙者の部下に宛て、指示の文を書く。

『戦況、以上無しと了承した。此方は今、荒事もなく主が案ずる事はない。主は、以下の任務を終わらせ帰還するように。任務内容』

「ワンッ!!」

―――ドスッ!!

「ゲフゥッ!!…ああぁぁあっ!!忍文がぁ!!」


突然背中に衝撃がきたと思えば…拙者の書いた忍文がぁぁ!!


『戦況、以上無しと了承した。此方は今、荒事もなく主が案ずる事はない。主は、以下の任務を終わらせ帰還するように。任務内容■■■∴.´』

墨汁で滅茶苦茶にいぃぃ!!
これでは任務内容が全く伝わらぬではないかぁぁ!!


「おのれぇ~…何奴!?」


勢いよく振り返ると、誰もいない。


「ワンッ!!ハッハッハッ…」
「な、なんと!?」


鳴き声につられて下を見ると、茶色い毛玉が…!!


「餅吉ー、餅吉どこ~?…ん?あっ!いたぁ♪」
「幸姫!」
「ワンッ♪」


幸姫は拙者の前にいる毛玉を抱き上げると、嬉しそうに頬擦りした。


「幸姫、何でござるかその毛玉は!」
「毛玉じゃないもん、餅吉!!」
「も、もち…は?」
「も・ち・き・ち!!庭で見付けたの!可愛いでしょ♪」
「ワンッ!!」
「いえ、ちっとも」
「くぅ~ん…」


なるほど、迷い犬か…。
種類は柴犬か?

そんな耳を下げて媚びても拙者には通用せぬぞ。
お主は拙者の仕事を妨害致したのだ。


「幸姫、喜ばれよ…今夜は犬鍋でござる!」
「ちょっと霧助!クナイしまって!!」


…ちょっとした冗談でござる。