「霧助!!戻ったか!!」
「政幸殿…」


屋敷の大門に着くと、夜闇で提灯を片手に政幸殿が立っていた。
拙者はばつの悪い気持ちで、政幸殿に歩み寄る。


「今まで何処におった、心配したぞ」
「申し訳ござらぬ、政幸殿」


政幸殿は特に拙者を責める訳でもなく、心から拙者を心配して下さった。

その優しさに、拙者は胸に込み上げてくる何かを抑え、ただ謝罪を述べる。


「幸が、お前を怒らせてしまったと塞ぎ込んでしまった」
「幸姫が…?」

「幸と、仲直りしてくれぬか?」


政幸殿は拙者に微笑みかけた。


「これはお前達の問題であって、俺の出る幕ではない…。俺の勝手な頼みとは百も承知だ、しかし…これ以上幸の悲しむ顔は見たくない…」
「…………」

「頼む、霧助…幸を許してやってくれ」


すると政幸殿はあろうことか、拙者に頭を下げてきた。


「政幸殿、お止め下され!どうか頭を上げて下され!!」
「では、幸を許してくれるのか?」
「当たり前でござる!拙者はそこまで頑固ではござらぬ!」
「霧助…!ありがとう、恩に着るよ」


本当に、政幸殿はお優しい…!
こちらが申し訳なくなる程に、慈愛に満ちたお方だ。

やはり拙者には、この神代家に仕える事が何よりもの幸せなのだ。


「お前が戻ってくれて、本当に良かった…!」


拙者こそ、この神代家に仕えられ、本当に良かったでござる。


「幸は部屋に引き込もっておる、後は頼んだぞ」
「承知致した」


拙者は屋敷へ入った。

そう、あのお転婆姫の元へ。