「あら、いい男じゃないか」


彩られた部屋に来たのは、これもまた彩られた遊女。

ここは遊廓、男達の欲を吐き出す場所。
数年ぶりの遊廓は、あまり変わってはおらぬ。


「あんた、来たときは顔を隠していたけど…一皮剥けると男前だねぇ」
「…………」


何でござろう、この胸のモヤモヤは…。
褒められておるのに、ちっとも盛り上がらぬ。


「遊女なりの男のたて方か…」
「痺れる声だねぇ…益々気に入ったよ」
「…!!何を致す!!」


突然拙者に抱きつく遊女。
女らしい柔らかな体と甘い香りが、拙者の体に絡み付く。


「何って…ここにきてやることと言ったら、一つだろう?」
「…そうであるが…」


細く滑らかな指が胸を這い、非常に不愉快な気分になった。

数年ぶりだと申すのに、一体何でござろう…この不快感は。


「……………」
「…?如何した?」


遊女は突然、拙者の体から離れた。
拙者は呆れた顔で見下ろされ、遊女は溜め息を吐く。


「止めだよ、お前さん…さっきから凄い顔だよ」
「顔…?」
「こーんな、凄い顔」

そう言って、遊女は露骨に嫌な顔をして見せた。

「拙者がそのような顔を…?」
「あんた、一体何しに来たのさ」


…拙者も、わからぬ。
何故、こうも居心地が悪い。

帰りたい気持ちが、強くなる一方だ。


「…すまぬが、やはり乗り気になれぬ」
「あたしだって、乗り気に出来ない男を相手に出来ないよ」
「…すまぬ」


拙者は金を置いて遊廓を出た。
虚しい気持ちが募っていく。


「…帰るか」


拙者はいつもの忍装に着替えて、屋敷へ戻った。