「あぁぁぁッ!!」
「うわっ、とっ、とっ…!!な、んな、なっ、何事でござる!?」


屋敷中に響き渡る幸姫の悲鳴に、拙者は手入れしていたクナイを危うく膝に落としかけた。

何事でござる!
まさか、奇襲でござるか!?

拙者は屋敷の最短距離から幸姫の元へ駆け付けた。


「幸姫!!如何なされた!?」
「霧助!あぁっ、霧助!!」


障子を開けると、目元を涙で腫らした幸姫が、拙者に泣きついてきた。
一体何事でござる、幸姫がこうも泣き叫ぶとは。


「霧助!私の…私の…」
「幸姫の…何でござるか!?」



「私の巾着が見付からないのーッ!!」
「…………」


拙者はポカンと口を開けたまま硬直した。

今この姫は何と申した。
巾着?あの壮絶な悲鳴の原因は巾着と?


「吃驚させるのにも程があるでござる!!」


拙者は幸姫の肩を抱き怒鳴った。

幸姫は先ほどの拙者のように、ポカンと口を開けておられる。


「拙者が一体どれだけ心配致したか!!幸姫に何かあったのかと思い駆け付けてみれば、何とっ…何とくだらぬ理由であろう!!」
「き、霧助…」

「もう幸姫に振り回されるのは御免でござる!!」
「あっ…霧助!!」


拙者は幸姫を放し屋敷を出た。
後ろで何かを叫ぶ幸姫であるが、もう知らぬ。拙者は知らぬ!

暫く反省して頂く!!


あのお転婆姫にはいい薬であろう!!
勝手にするがよい、拙者は戻らぬ!!


…今夜は城下町の宿で一夜を過ごすか…。


―――いや、久々に羽目を外し、遊女の元へ行くか…。


拙者は人気が少なくなりつつある城下町へ向かった。