団子を食べ終えた幸姫は、次に着物屋へ向かった。

仕立ての準備をしていた店の主が、拙者達に気付き歩み寄った。


「ようこそいらっしゃいました。どの着物に致しましょう?」

「幸姫、念のために申すが、拙者は着物を買う程の金はござらぬよ」
「えっ!?」
「えっ!?って…また買ってもらうつもりであったか!?」
「そうだけど」
「いけしゃあしゃあと…何を申すかこの姫は…」

「旦那、着物は駄目でも…こちらの布は如何でしょう?」


そう言って、店の主は着物の布を見せてきた。
幸姫の瞳が輝き、その布に食いついた。

嫌な予感しかせぬ…。


「霧助!私この布が…」
「駄目でござる。着物なら余るほどござろう」
「…そうか、そうだよね…」


…ぬ、少しきつく言い過ぎたか?

幸姫の悲しそうな横顔に、何故だか胸が痛む。


「霧助には、着物を買う余裕すらないんだよね…」
「…何を勘違いしておりまする。拙者は、普段から着物買う程の金を持ち歩いておらぬという事で、己の着物を買う余裕位はありまするよ」
「え?そうなんだ、なぁんだ!!私、てっきり兄上からそんな給料しかもらえないものだと思っちゃったー♪」
「壮絶な勘違いでござるな!貴女の兄君は鬼でござるか!?」


いや、まぁ鬼と言えば鬼武者だが…。


「こりゃあ、買って頂く様子はないですな」

「申し訳ござらぬ、しかし見事な着物ばかりでとても素晴らしいと思いまする。また機会があれば、今度は買わせて頂こう」

「はい、お待ちしております」


拙者は店の主に頭を下げ、幸姫を連れて店を出た。

不服そうに拙者を睨む幸姫。


「如何致した、幸姫」
「…何でもない!!」
「何をそんなに拗ねておられまする」
「拗ねてないもん!次の店行こ!」
「…おかしな姫だ」


拙者は、櫛屋に走って行く幸姫を追い掛けた。