戦は、終わった。

神代家の勝利、但し芳垣軍は敗退を認めただけで、その首をとった訳ではござらぬ。
死傷者は最低限に止めたが、今宵もまた多くの仲間の命が散った…。

神代家の名は、日ノ本を馳せるであろう。
散々に己の主の元へ戻る、各軍の忍達が見えた。

さて、この戦果が神代家に吉と出るか、凶と出るか…。


「いや、しかし蒸し暑いな…」


拙者は肌に貼り付く忍装をパタパタと引っ張る。

もう夏であるから仕方ない、雨も降ったのだ。


「夏…か」


拙者は戦の前日に見た夢を思い出した。
あの夢も、そういえば夏の日の出来事であったな。

泣きじゃくる幸姫を慰め、褒美に花を持ち帰ったか…?


はて、あの花は何だったか…。

低い山地で見付けたのは覚えておる。
しかし、花の名が何故か思い出せぬ。

何が関係していたのか…そう、何か関係していたのだ。
それが何だったか思い出せればな…。


「流石、政幸様はお強い」
「某達の誇りだ」
「やはり、"鬼武者"と恐れられる程の事はある」

「…!!それだ!!」
「「「…!?」」」ビクッ!!


そうだ、"鬼百合"だ!

鬼の妹と貶されていた幸姫に、拙者は鬼百合を持ち帰ったのだ!
そうか…丁度、今の季節であったな…。


「もう咲いておるやもしれぬな」


橙色の花弁が美しい花であった…。
幸姫の橙色好きは、丁度あの時から始まったな、何とも懐かしい。


「政幸殿」
「…?どうした、霧助」


「少し、拙者に時間を下さらぬか?」