返り血をなるべく避ける。

これは拙者が個人的に注意する行動の一つだ。
痕跡が敵に伝わらぬようにする、というのも理由の一つだが、大きなのはやはり、幸姫の事だった。

幸姫は血を嫌う。戦いを好まぬ。

拙者が"そういった任務"から帰ると、必ず湯あみに入れようとする。
言われなくとも自分から入るように心掛けておるのだが、やはりどうしても幸姫に見付かって言われてしまう。


拙者とて、血生臭い格好で人前には出たくない。
むしろ、潔癖症な拙者には考えられぬ。



――――ザシュッ!!


「グァッ…!!」


懐からクナイを斬り入れる。
極力、返り血を浴びずに済むやり方で終わらせたい。


「ぁ…あ、グ…!!」
「…すまぬな」


しかし、そうすると相手は少なからずすぐには逝けぬ。
しばし苦しみ悶え、やがて息を引き取る。

拙者は、最初こそ罪悪感はあったものの、今ではこれが癖になりつつある。
変えようがないのだ、あの姫君の悲しむ顔は見たくない。



"姫君の為"、か…。
ふっ…おかしな話よ、結局は自分を守る為ではござらぬか。


「ギャアァ!!」
「ぁぐッ!?」
「うあぁッ!!」


忍は忍、掛かってくるがよい。
幾人でもお相手致そう。

拙者に勝てばお主はかなりの兵、拙者に負ければ…安楽死では済まぬと思え!


「お命、頂戴致す」


拙者は忍、主の影…。
この戦、負ける訳にはゆかぬッ!!