忍の朝は早い。
…とかっこよく言ったものの、そもそも拙者には朝とか夜とか関係ない。

「霧助~、お手玉どっかいった」
「またなくしでござるか、幸姫」

この見目麗しい姫は、神代家当主の神代政幸(かじろ まさゆき)殿の妹君、神代幸(かじろ ゆき)姫。

お転婆と言うより、暴れん坊でござる。
男勝りな性格は、一体誰に似たのやら…。


おっと、紹介が遅れて申し訳ござらぬ。
拙者は、神代家に仕える忍、日向霧助(ひゅうが きりすけ)と申す。

この武家に仕えてから、なにかと苦労が絶えぬ。


「何色の、何柄でござるか?」
「灰色の、唐草模様」
「それは拙者の煙玉でござる!!」


あんなものでお手玉しないでくだされ!
屋敷中が煙たくなりまする!


「一体どこから持ち出したでござる!」
「西道にある松の木の上」
「あんなところに登ったのでござるか!?」


何と危険な…少し目を離したらすぐこれだ!

呆れてものも申せぬ…。
何故この姫は、こうも反省の色が見られぬのだ…。


「幸姫、お手玉と申すからには、もう片方もござろう。残りの煙玉を返してくだされ」
「イヤ」
「い、イヤ!?」


何を申すかこの姫は!


「いいから返されよ!さもなくば…」
「ごめんなさい!」
「わかれば良いのでござる」


懐からクナイをちらつかせれば、大体素直になる姫。

やれやれ、朝から疲れた…。
今度は幸姫も見付けられない所に忍具を隠さねば…。

やることが増えたでござる…。


「はぁー…」
「ため息吐いたら幸せ逃げるよ、霧助!」
「幸姫のせいでござるよ!何を申しておられるか!?」


本当にこの姫は疲れる!!