それが彼女が歌っていると分かったのは、聞き惚れて少しあとだった。

話題話題と必死になっていたから、その歌に飛びついてしまった。


「それ何の歌?きれいだな」


こっちを向いてくれるかと思ったら、グラウンドの方を向いたまま顔を俯けてしまった。

そのままぽつぽつと話し出す。


「…これはね…。


大事な、大事な人がくれた、歌なの」


泣いているのかと思い慌てて詫びようとしたら、案外明るい笑顔でこちらに向かってきた。

そのまま隣にすとんと腰を下ろす。


「いっつもここでサボってるでしょ?」


驚いて口が開いた。

まさか俺のことを知ってるとは思わなかった。

あれ?俺って結構有名人だったりする?


「1年生のうちからサボるやつがいるって、結構君のこと広まってるよ」


しかも場所が場所だしね、と続けて笑った。

彼女が笑うたび、どうしようもなく俺の体温が上昇する。

でも、ずっと見ていたいと思う。


「じゃあ、そろそろ行くね」


彼女が立ち上がって屋上の扉に手をかけたとき、思わず叫んだ。


「俺っ斉藤真!覚えてて!」


また少し微笑んでうなずく。

返事の代わりに手をふって扉の奥に消えた。