ある場所。

そこは、私たち人魚が恐れている場所。

美しいから恐ろしいのか。

恐ろしいから美しいのか。

人魚にとって、人間の世界は禁忌の世界。

行っては行けない場所。

でも、私は行かずには居られなかった・・・。


水面から顔を出すと、そこは紅く染まった海だった。

「・・・。もう夕暮れだったんだ・・・。」

お父様達は夜遅くにしか帰ってこないから、大丈夫。

最初に海の深くから出てきたのは、ずっと昔。

人と人魚では、寿命が違う。

だから、私たちで言う「少し」は、人にとっては長い時間なんだろう。

流れている時間は同じなのに、寿命が違うだけで感覚が違うなんて・・。

おかしな話だわ。

昔から人は人魚をとらえ、血肉を食べようとしていたらしい。

人魚の身体は[不老不死]の効果があるという。

その涙には、傷を癒す効果があるという。

ただ、私たち人魚自身では、何の効果ももたない、が。

狂族は、王族の血肉なら効果があると考えているのだろうか?

不老不死になったって、なにも良いコトなんて、ないだろうに・・。

しばらく考え事をしていると、近くを船が通った。

私はすぐさま側にあった岩に身を潜める。