急性大好き症候群

「あ」


あたしは声をあげていた。


「何?」


シャーペンを握り締めて目線を問題集から外さないまま太一が口を開く。


「思い出した」

「何を?」

「家に高校受験で使った参考書がある」

「唯織用? 難しいやつ?」

「や、本当に基礎の基礎しか載ってない薄っぺらいやつ。例題付きで、すごいわかりやすいの」

「なんで唯織がそんなもの持ってんの?」

「得意なものこそ基礎を忘れがちだからね。いる?」

「それで苦手意識がなくなるならいる」

「じゃあ、明日持ってくるね」

「俺が今から取りに行っちゃダメ?」

「は?」


予想外、とはまさにこのことである。


「……随分勉強熱心なんだね」

「人の倍以上努力しなきゃ受からないって言ったのは唯織でしょ?」


言ったけどさ。


「あ、家に親いるから」

「年上を襲う趣味はありません」


随分言ってくれますね、この中学生。