急性大好き症候群

「……てことは? 太一はもう童貞じゃないってこと?」

「うん」


太一はなんてことないと言いたげに平然とした表情だった。


「すごいね。中学生でやったとかあたしの周りで聞いたことない」

「だろうね」


あっさりすごいことを言いのけるもんだから、あたしは複雑な表情を浮かべてしまう。


「唯織は? ないの?」

「そういうこと女の子に聞く? ていうか別れかけてる人にそういうこと普通聞く?」

「ふうん。まだなんだ」


にやりと笑う目の前の中学生を叩きたくなった。


「うるさいな。中学生でやる方が珍しいんだよ」


あたしは太一の目の前の問題集を指差して、次はこの問題ねと指示を出す。


「でもさ、こういうことやって本当に意味あんの?」


太一がシャーペンを手で回しながらぼやく。


「物事はなんでも基礎から。今はすぐに役に立たないものでもじきに役に立つもんだってあるんだから。特に数学は、はい、つべこべ言わず手を動かす」


あたしが急かすと、太一はわかったよと遅いながらもようやくシャーペンを走らせた。