急性大好き症候群

「太一、この問題集真っ白じゃん。解いてないの?」

「数学嫌いすぎて、ページめくることすらままならなくてさ」

「そんなこと言ってたら、いつまで経っても解けるようにならないよ。拒否反応が出てるくらいか。重症だな、こりゃ」


まあ、あたしも日本史嫌いだから気持ちはわかるんだけど。


「太一って、何の教科が得意なの?」

「国語と英語。その二つは毎回学年一位取ってる」

「すごいね。満点とか?」

「何回か取ったことある」

「数学は?」

「……よくて50点」


なるほど。


あたしも日本史嫌いだから気持ちはよくわかる。


「よし、じゃあ、この問題やってみるか」


あたしが図形だらけのページを開いて太一の前に置くと、太一はあからさまに嫌な顔をした。


「うわ……」

「このページ全部やれって言うんじゃないの。まずは最初の二問だけ解いてみて」

「え?」

「太一はまず基礎からできてないと踏んだ。そんな人が最初から難しい問題なんて解けるわけないでしょ。とりあえず太一は国語と英語が武器なんでしょ。数学は足を引っ張らない程度にできればいいと思う」

「マジで?」


途端に太一の顔がパアッと明るくなる。


「あ、でも数学も人並み以上にやんなきゃダメだよ。人よりできないものは、人より多く時間を割かなきゃできないよ。うちの高校、どれか一つでも50点未満だったら落とされる」


あたしの話で太一が一瞬で肩を落としたのは言うまでもない。