急性大好き症候群

「じゃあ、さっそく始めようか」

「はーい」

「とりあえず、太一の実力がわからないと教えらんないから」

「どうすんの」

「数学の問題集ない?」

「あるよ」


太一が机の棚から青い表紙の冊子を取り出してあたしに手渡す。


中学三年生用の数学の問題集だ。


「太一は計算できる?」

「小学生レベルなら余裕だけど」

「じゃあ、図形は?」

「見るだけで頭痛がする」

「証明は?」

「問題読むだけで腹痛くなる」

「……関数は?」

「忘却曲線の如く、腰の調子が」

「つまり、全部ダメってことね」


要するにあたしとは全くの真逆か。


ため息をつきたいのをぐっと堪えて問題集をパラパラとめくる。


せっかくの太一のやる気を削ぐようなことをしてはいけないというのは、あたしも二年前に同じようなことを経験したからだ。


こりゃあ、基礎の基礎からやらせるしかないな。