急性大好き症候群

家はそこからすぐにあった。


住宅街の一角の茶色い壁の一軒家。


「ここって……」

「俺ん家だけど」

「元町内会会長?」

「あ、当たり。知ってた?」

「近所だから小さい頃親と来たことある。確かその時、会長さんの後ろに男の子が……」


本当に記憶の片隅にしかないから、メガネをかけている人が裸眼で見るようにぼんやりとしか思い出せないけど。


会長さんは朗らかな女性だった。あたしはその人を親の後ろに隠れながら見て、そんなあたしに気づいた会長さんは体を屈めながら「何年生?」と聞いてきたのにあたしは驚いて、「二年生……」と蚊の鳴くような声で答えてしまった。


大人と話すのは昔から苦手分野だった。


会長さんはそんなあたしを見てにっこりと笑って「うちの子、四月から一年生なの。仲良くしてやってね」と、後ろに振り向いて男の子をあたしの前に出した。


その時初めて会長さんの後ろに男の子がいたことを知った。


「あら、じゃあうちの二番目と同い年ですね」と母は言い、「ならばそちらで仲良くなるかもしれないですね」と親同士で会話が盛り上がる。


あたしはそれを小耳に挟みながら、目の前に立った男の子を見つめた。


可愛いと思った。


なぜかこの子のお姉さんになったような、変な感情に駆られる。


「よろしく……ね」


あたしが精一杯の勇気を出してそう告げると、男の子は身を翻して家の中に入って行ってしまった。


子供心に、ショックを受けたのを覚えている。