急性大好き症候群

「ほんと、ばかでしょ、姉ちゃん」


あたしが家を出る一週間前、弘樹に罵倒された。


弘樹は受験した全ての大学に落ちて浪人、太一は首都圏の公立大学に進学することが決まった。


「まさかとは思ってたけど、どんだけ太一に固執してたの? ありえないってわかってて姉ちゃんを選択肢に入れるとか何考えてんの?」


ぼろくそ言われた。


正論とはいえ弟にここまで言われるとけっこうくるものがある。


「弘樹だって同じようなものじゃん……」

「俺は一度きりだから。しかも、あの二人がヨリを戻してからは一度も麻尋を口説いてないし」

「口説いてたんだ……」


なんか、姉ちゃんは尊敬するよ。


「姉ちゃんは口説いてないじゃん。流れに身を任せるっての? ただ太一に抱かれただけ。ほんと、何してたの? それだけで太一が姉ちゃんに乗り換えると思った? 太一と麻尋はそんなんで崩れるような関係じゃねえよ。もっと深いところで好き合ってんだ。姉ちゃんの入る隙間なんかない」

「わかってるよ」


そう、あたしは何もしなかった。


それでも、少しでもあたしを好きになってもらいたかった。


夢を見ていたかった。