急性大好き症候群

「裕也~。今日一緒に帰ろ~」

「あれ、そういえばCDは?」

「家に忘れてきたみたい~。だから家に寄ってってよ」


放課後。


ざわついた教室の中で、飯田さんと裕也の会話があたしの耳に飛び込んできた。


「ったく、仕方ねーな」

「やった!」


二人が笑い合いながら教室を出ていく。


今日も放課後に裕也と視線が絡むことはなかった。


思わずため息が出る。


「家に寄ってってだって。考えてることバレバレ」


美紗があたしのそばに寄ってきて、眉をひそめた。


「そだね……」


家に寄ってって、ね……。


さすがのあたしも、それがどんな意味を成しているかくらい知っている。


裕也もわかって行った……よね。


この頃ずっとこう。


クラスの女子の誰かが毎日裕也に声をかけて、一緒に帰っていく。


もう半年以上になるのかな。


ここまで来ると、もうあんな光景も見慣れてしまった。


本当は彼女であるあたしが、なんとかしなきゃならないのだ。


もっと前に、手遅れになる前に。


「部活行こっか」

「そうだね」


鉛のように重い気持ちを教室に残して、あたしたちは体育館に向かった。