急性大好き症候群

「裕也、あんたは外に出てて。安心して。美紗をどうにかする気はないから。仮にも『元』親友だし。なんなら、叫び声が聞こえたら入ってきてもいいよ」


挑戦的な口調で言い放ったあたしに舌打ちして、裕也は教室の扉に手をかける。


「裕也」


ゆったりとした口調で呼ぶと、一瞬裕也の動きが止まる。


「逃げんじゃねえぞ」


思ったより低い声が出て、裕也は当てつけるように乱暴に扉を閉めて教室から出て行った。


当たりたいのはあたしの方だっつの。


「さてと」


窓際に体を向けると、美紗は窓際の席にぼんやりと座っていた。


あたしはそこから二つ隣の席に座っていた。


何かする気はさらさらなかったけど、激情したらあたしがどんなことをするか想像できない。そして、美紗もあたしに何をするかわからない。


そんな考えが巡っているほど、あたしの心は気味が悪いくらいに冷静沈着だった。


「やっと本気を出したわね」


一瞬、美紗の声と判別できなかった。


椅子に座って足を組んで、机に肘をついてこちらを見ている美紗はさっきの潤んでいる目など微塵もなかった。


笑いもせず、ただ真顔であたしを見ていた。


美紗は人を見下すような真似は絶対にしない。


その目は、あたしにむしろ敬意を向けているようだった。