「ね、あれ本物?」

席に戻ってきた森川くんに聞く。

店の中に木製のテレフォンボックス。
中にはピンクの公衆電話がある。
電話の上に小さなライトがあって
そこだけが違う空間のように
光っている。


「あれ?本物の電話。
この店騒々しいけど、あの中は案外静かでさ、
あそこから電話してもルイーズにいるって
相手にはバレない。」


「ここにいるってバレちゃマズいのかよ?」

マスターが笑いながら聞いた。


ピンクの公衆電話。
久しぶりに見た。
本物なのね。



暗い店内であそこだけ光ってる
神々しく?
それとも、なんだかもの悲しく?


気付いたら
もう8時を少しまわってた。

「たいへん、
帰らなくちゃ。」


慌てる二人を見て
マスターがタクシーを呼ぶ。


運転手に裏道を説明して・・・・
森川くんが
「やっぱ、俺一緒に乗るよ」、
と言ったけど、

「いい、一人で大丈夫」


と言ってドアを閉める。



門限をとびこえて・・・
あの店にいた私。


この上、森川くんと一緒にタクシーで帰るだなんてこと。