「杏・・・よく眠ってるみたいだから
ちょっとお茶でも飲みに行こうよ。

といっても、このフロアの休憩室だけどね。


すみません、この子が起きたら
休憩室にいるので
呼びに来てもらっていいですか?」


隣のベッドでつきそいをしている
若いお母さんにそう声をかけて
病室をあとにした。


「今日で4日目なんだけど、
同じ病室のお母さんたちとも
仲良くなっちゃって。

もちろん私が一番、年上よ。


でもね、若くても3人の子持ちの
お母さんなんかだと、
全然動じてなくて、
どっしり構えてるのよね。


母っていうものには
今までのキャリアとかそんなもの、

全く役に立たないってことが

よくわかったわ。」



確かにそうだ。


未来が赤ちゃんだったとき、
私はまだ若くて
こんなに若い私に赤ちゃんのことなど
わかるわけがない、と言って

いつも母に頼っていたけれど、

母親という仕事に
年齢やキャリアは関係ない。


「やっぱり経験なのね。」
志穂がいう。



なんでも経験かぁ。



今だに好きな人のことで
どうしていいかわからない私は
やっぱり

経験不足



ってことなのかな。