知らないはずだ。
しかし潤子も拓哉も、それを奇妙には感じなかった。
「…うふふ、なんでかしら。
なんだか今、とても懐かしい感じがしたわ。」
懐かしい。幸せな、大好きな響き…。
二人は確認しあうように、もう一度名前を口にした。
豊花、と。
「………ゆたか……。」
ノートを見つめたままそう呟いたのは稔だ。
潤子と拓哉だけではない。
稔もまた、その響きに確かに心惹かれていた。
字の周りに散りばめられた、たくさんの花のイラスト。
豊かに咲き乱れる花々は、その少女を強く印象付けている。
稔は二人と同じように、目を細めて“豊花”のイラストを見つめた。
大切な人を想う…。そんな気持ちを抱いて。



