黒い着物に黒い髪、黒い雪駄(せった)に、チューリップの花をひっくり返したような古めかしい黒い帽子。目深にかぶっているから顔はよく見えない。

そんな、不自然に黒ずくめな人が、トンネルの真ん中に立っていた。


「勇気のある子だ。
逃げる機会を与えられたにも関わらず、自らこの世界に舞い戻るなんて…。」


背が高くて声が低い。男の人…のようだけど、


「………あ、あんたも…“人鬼”なの…?」


帽子を突き破って生えている、二本のひしゃげた黒い角が、ただの人間でも商売人でもないことを物語っていた。



男の人は、口をにんまり歪めて笑う。