私は耳に当てていた受話器を力無く下ろして、ゆっくりゆっくり後ずさる。

なぜだろう、ここから離れなきゃいけない。そんな危機感がする。


お母さんは震える口を開いた。



「………豊花、あなた…、

“稔”の何を知ったの?」



電話の内容が聞こえてたらしい。


私はぞわっと悪寒を感じ、とっさに首を横に振った。「何も知らないよ」の意味で。

…でももう遅い。
お母さんは私の肩を掴み、声を荒げ始めた。


「…言いなさい豊花!!
稔の何を知ったの!?誰に聞いたのッ!?」


「…で、でも……、」


お母さんは錯乱しかけていた。
こんなお母さんを見るのは初めてで、…私は怖くて怖くて、何を言ったらいいのか分からなかった。