やがて塊たちの姿が完全に見えなくなると…、
「もういいですよ。声を出しても。」
「っ!」
陳列棚にもたれ掛かりながら、男の人が私の顔を覗き込んで言った。
「…っ、」
最初、すぐに声が出せなかった。さっき見た恐ろしいものが頭に焼き付いて離れなくて…。
「…きみの知る“お客様”と違って驚いたでしょう?」
男の人は、私の胸の内を的確に読み取っていた。
「……っ、だ、だって…、あんなの……見たことない…。
ここ…何なの……?」
ぽたっ、ぽたっ…と、
自分の両目から大粒の涙が流れていることに、最初気づかなかった。
「…、う…ぅ…っ。」
「…………。」
普段すかして達観してる私が泣くなんて有り得ないことだと思ってた。
見ず知らずの人に泣き顔を見せるなんて、情けない…。
でも、一度流れ出した涙はそう簡単に止まるものじゃなくて。



