私はその光景を見て、懐中電灯を構えるのをやめた。
なぜなら、懐中電灯が無くても充分なくらい、
地下街の通路すべてに明かりが灯っていたからだ。
それだけじゃない。
薬屋の向かいには、昔行きつけだったドーナツ屋さんではなく、
また古めかしい字で「床屋」と書かれた床屋が、赤色と青色を無くして黒白二色しかないサインポールをくるくると回している。
あっちにはコンビニがあったはず。
でも今は、古めかしい字の「写真屋」看板を掲げた写真屋さんが、不気味な目玉のオブジェで客引きしている。
見たことのない光景がそこかしこに広がっていた。
私の知らない別世界。
“トイレット”のプラカードの代わりに、
“厠あちら”と書かれ吊された板を凝視して、
「拓くんっ!潤ちゃんっ!!」
私はたまらず、叫んだ。



