6年生にもなってこんな状況になるとは思ってなかったけど。
私が警戒を示すと、男の人はクッキーを白衣のポケットに戻した。
ちょっと惜しかったかな…と思うけど、いけないいけない。私は意味もなく男の人を睨む。
すると男の人は、今度は困った笑みを見せた。
「警戒させたならごめんなさい。軽率でしたね。
僕はただ、こんな真夜中に店先に女の子が座っているのが心配だったんです。
自分の店の目の前なら、知らん顔はできないでしょう?」
「自分の店…?」
その言葉に引っ掛かりを覚えて、私は薬局の看板を見上げた。
「え…っ!?」
さっきまで、看板には“斎珂薬局”と書かれていた。
でも、なぜだろう。
今そこには古めかしい字体で、
“薬屋”とだけ書かれていたんだ。



