「私、随分ユズに毒されてる気がする」

 食器を片付けながらぼやいた私に、ユズは大笑いした。

「ははっ、それはいい兆候だ」
「本当かなぁ」

 私も笑って、食器を洗う。その間ユズは私を眺めている。

「テレビでも見たらどう?」
「杏奈見てるほうがいい」

 そう言って、微笑むユズ。

「杏奈といると、結婚も良いなって思っちゃうのが不思議だな」

 私はぽろっとスポンジを取り落とした。

「ん? どうした?」
「……びっくりしただけ」

 結婚、だなんて、考えたこともない。
 だけど、ユズは私と一緒にいたいと言ってくれている。よく考えたらユズはいい年をしているわけで、付き合うということは、結婚がついてくるのだろうか?

「ユズも、結婚を考えるんだなって……」

 そう言ってユズの様子を伺ってみる。

「確かに、今まで考えたことはないんだけどな。杏奈といると、良いなって思う。あんな美味い料理毎日食べられて、杏奈みたいな美人と一緒にいられて、男冥利に尽きるだろ」

 私は苦笑した。

「美人って言ってくれるのは嬉しいけど、美人は三日で飽きるって言うからね」

 そうやって、何人の男が私に飽きていったっけ。
 私の言葉に、ユズは目を見張った。