「……何だよ。落とす気か?」
「そうじゃなくてっ」
「ん? なんで顔真っ赤なわけ?」
にやっと笑ったユズが、あろうことか私を組み敷いた。
「っ!」
「あ……」
そこで、ユズは自分の状態に気づいたのだろう。ぴたりと動きを止めた。私は真っ赤になってうつむくしかできない。
「……もしかして、当たってた?」
「ユズの馬鹿!」
私は思い切りユズをベッドから突き落とし、布団にもぐりこんだ。
「いって……すまん、調子乗った」
「最低っ」
布団を頭までかぶって、私はどきどきする心臓を押さえ込む。
「ごめんってば」
「…………」
だんまりを決め込む私。と、何を思ったのか、ユズは布団ごと私に抱きついた。
「ちょっ!」
「許して?」
布団をはいで、可愛くぶりっこをするいい年をしたこの男を、私はばしっと叩いた。
「馬鹿なことやってないで、さっさと顔洗ってきてっ」
「ちぇ、杏奈ってば、つれないな」
くすくす笑いながら、ユズは部屋を出て行った。
絶対に、ユズは私をからかってる……。
むすっとしながら、布団を直す。
ベッドのぬくもりに触れた瞬間、そこに寝ていた人を思い浮かべてしまう。


