マスカケ線に願いを


「大河原さんは、正直者だな」
「え?」

 見れば蓬弁護士も目元に笑みを浮かべている。

「コーヒー飲んでから帰りなよ。美味しいからさ」
「ごめんな、引き止めて」

 二人の笑顔に、私は息を飲む。
 帰りたいと思っていたはずの私の心が、揺らぐ。

「あ、いえ。特に急いではいないので……」

 なぜか、私はそう答えていた。
 それは二人の笑顔が、印象的で目が離せなかったから。

 それは、自信に満ち溢れている人の顔だった。きらきらと輝いてやまない眼光を持ってる人の顔だ。

 ああ、そうか。

 強烈なキャラに圧倒されていた私は失念していた。
 久島幸樹と蓬柚紀という名前を。

 経験がものをいう弁護士の世界で、三十代半ばという若さにして、第一線で働いているうちの事務所のエース達。

 そういえば名前を聞いたことがあった。
 女の先輩がお近づきになりたいと鼻息を荒くしていたのを覚えている。

 そうか、それが彼らなんだ。

「そう? ならもうちょっと付き合ってよ」

 久島弁護士がそう言って笑う。

「そんなこと言って、本当はデートでもあるんじゃないのか?」

 からかうように言う蓬弁護士に、私も笑顔で首を横に振った。