マスカケ線に願いを


「お前な、初対面の美女に向かって何を言ってるんだ」
「別に悪いことじゃないだろ、気が強いのは」

 久島弁護士の責めるような言葉に、蓬弁護士が心外だという風に顔をしかめる。しかし久島弁護士も負けじと返した。

「気が強いって言われて、いい気分になるやつがいるかよ」

 私は反応ができず、言うべき言葉も見つからず、ぽかんと二人を見つめた。

「お前な、気が弱いって言葉は悪い意味で使われてるだろ? だったら気が強いは別に悪くないだろ」
「あのな、普通がいいんだよ。普通が。弱くても強くても、人に言うもんじゃないの」

 目の前で繰り広げられているこれは、漫才なのだろうか……?

 久島弁護士の言葉に、蓬弁護士はむっと口をへの字に曲げた。

「俺は気が強い子が好きだからいいんだよ」
「おま、それは遠まわしに大河原さんが好きだという告白か? 初対面の女の子に告白しちゃうような軽薄なやつなのか、お前は?」
「論点が違うだろ」

 ……論点は、最初からずれまくっている気がする。

 帰っても、いいかな……。

 この人達は、本当に弁護士なのだろうか。
 あ、弁護士だから討論が好き、なのか?
 でも、これはちょっと……漫才にしか見えない。

「弁護士って、漫才もできるんですね」
「は?」

 思わず洩らしてしまった言葉に、二人が声を揃え、同時にこっちを見た。私は慌てて首を振った。

「あ、いえ。何でもありません」

 失言に、本気で帰りたくなった私だったけど、明日は休日だから、明日は早いからって言う理由では帰れない。
 どう切り出そうか考えていると、ふっと久島弁護士が笑った。