今まで過ごしてきた中で、そんなふうに言われるのは初めてだった。
男達はいつも決まって、私はしっかりしていると言った。
そんな私だから、安心できるとか、そんな上手い言葉で私を誘惑しようとする。
だけど、すぐに私に飽きていく。
私はユズの真意がわからず、彼を見つめた。
「杏奈は、しっかりしてるように見えるけど、なんかどっか危なっかしい」
「気のせいですよ、きっと」
応えながら、ユズも結局他の男と同じなのかな、と思った。思って、しまった。
こうやって、私を甘やかして――結局は離れていく。
「お手洗い、どこですか?」
「……そこ、部屋出て右」
改めて訊ねると、ユズはあっさりと私の手を放して答えてくれた。
小さくため息をつきながら、トイレに向かった。
洗面所の鏡を見て、私はうなった。鏡の向こうの私は、酷い顔をしていた。
無表情を顔に貼り付けている。
こんな顔でユズと会話していたのか。
再びため息をついて洗面所から出ようとして扉を開くと、ユズがそこに立っていて死ぬほど驚いた。
「ちょっ、お、驚かさないでください!」
「……」
ずいっと、ユズの顔が私の目の前に来る。
「っ……」
目の前にあるユズの黒い瞳に、戸惑い顔の私が映っていた。
「な、なんですか?」
「け・い・ご」
「へっ」
「敬語やめろって」
そう言って私から離れたユズ。


