「なんでそんな強引なんですか」
「二人っきりのときくらい、敬語じゃなくても良いだろ?」
そんなことを言われ、私はきょとんとした。
昨日はユズに拾われる形でこうやってここにやってきたけど、これからも二人きりで過ごす機会などあるのだろうか。
片や一介の司法書士、片やエリート弁護士。
私達が一緒に過ごす機会がそうそうあるとは思えなかった。
「なんて顔してんだ」
きょとんとしている私を見て、ユズが笑った。
「今度、また一人になりたくなったら俺んとこ来い」
「え?」
私としたことが、とっさに反応できなかった。
「一人であんなとこに座ってるより、俺んとこにいてくれた方が安心だ」
「……どうして私に構うんですか?」
同じ職場にいながらほとんど顔を合わすこともなく、一度しか言葉を交わしたことがなかった私に。
一晩一緒に過ごしたからといって、ほとんど初対面であることには変わりない。
「なんでだろうな」
そう応えたユズは、真剣な顔をしていた。
その表情に、どきりと心臓が鳴る。
「なんか、杏奈って放っておけない」
「……え?」
私は、目を丸くした。


