「きゃっ」

 突然ユズの手が伸びてきて、腕をいきなりつかまれた私は体制を崩してベッドに倒れこんだ。

「な、なにするんですか」
「ん、なんとなく」

 見上げてくるユズが、それこそ猫みたいで可愛い。
 私は苦笑した。

「お手洗い、どこですか?」
「教えなーい」

 にっこり笑顔でそんなことを言われても困る。

「なに駄々っ子してるんですか。教えてくださいよ」
「杏奈が敬語やめたら教えてやる」
「え?」

 にこにこと笑いながら私の腕を放さないユズ。

「えっと、ユズは年上ですし、仕事場でも顔を合わせるので、敬語がいいんですけど」
「駄目。俺がやだ」

 やだとか言われても、困る。
 私はふと考える。

「……それなら、仕事場で杏奈って呼ばないって約束してくれたら、敬語やめます」

 しばらく考えた末、私はそう告げた。
 昨日ユズはこれを約束してくれなかったのだから。

「わかったから」
「本当ですか?」
「敬語やめなかったら、ストーカーする」

 ユズの強引な言葉にちょっと噴き出す。