「蓬弁護士!?」

 そこにいたのは、蓬弁護士だった。

「やっぱり、大河原さんか」

 そう言って、蓬弁護士は私の隣に腰掛ける。
 蓬弁護士は珍しいをものでも見るように、私を見た。

「髪の毛下ろしてると、印象がだいぶ変わる」
「そう、ですか?」

 こんなところで蓬弁護士に会うなんて、予想外もいいところだった。

「ところで大河原さんって、名前なんていうの?」

 蓬弁護士が訊ねてくる。

 本当は、一人でいたい。
 だけど、無性に寂しいから一人にはなりたくない。
 たまに陥るそんな矛盾した感情。

 本当は、そんなときに他人が近くにいると不快感を覚えるものなのに、不思議と蓬弁護士が近くにいるのは嫌じゃなかった。

「言いませんでしたっけ? 杏奈です」
「へぇ、杏奈、ね。可愛い名前」

 可愛いという言葉も、大して感慨もなさげに言われると、なぜか笑えてしまう。

「こんな時間に、こんなところで何をなさっていたんですか?」
「それ、こっちのセリフ。女一人でこんなとこにいたら、持って帰ってくださいってのと同義語だろ」

 呆れたような、責めるような言葉をかけられ、私はうつむいた。
 一人になるのが嫌で、家に帰りたくなかったとは言いにくい。