一緒に暮らす、それは想像するだけでどきどきするようなことだった。
ユズの甘い声で眠りにつき、朝一番にユズの寝顔を見れる。ユズのために料理をして、一緒に家事をして、お互いを助け合う生活。それは、夢のような日々のように思えた。
ユズと一緒にいたい。
私を包み込んでくれる、あの腕に甘えたい。
それは、甘い綿菓子のような、すぐに消えてしまう儚い幻想であるということに、このときの私は気づけなかった。
今までコウ達も一緒に四人で食べていた昼食も、いつの間にかユズと二人きりで食べる機会が多くなっていた。それは私達がコウと小夜さんの邪魔をしたくないというのと、向こうも私達の邪魔をしたくないと思っているのが重なった結果だろう。
それでもたまには四人で飲みに出かけたり、一緒に食べたりするので、何か関係が変わったというわけではなかった。
仕事の後は、日課のようにユズと食事を取る。場所はレストランやユズの部屋といろいろだったけど、一緒に食べているということは変わりない。
そんな毎日に、私はすっかり安心しきっていた。
初めのころに抱えていた不安。
ユズがどこか遠くへ行ってしまうのではないか。私を置いていってしまうのではないか。そういった思いが消えてなくなったわけじゃない。
不安になるのは、距離があるからだ。安心したいのなら、二人の距離を縮めればいい。
私は心のどこかでそう思っていたのかもしれない。
だから気づけていなかった。
マスカケ女の私が、頑固でしっかり者といわれる私が、自分の足で歩けなくなっているということに。