「大河原君、そういうことなら言ってくれれば良かったのに」
「ちょ、違うんです」

 慌てて否定しようとする私の耳に、あの子がか、と囁く声が聞こえてくる。

「俺の大切な子猫だからな、守ってやりたいんだけど、どうすればいいだろうね」

 私はこの場から逃げ出したくなった。

「そ、それは……」

 しどろもどろになる先輩達。

 本当に、もうやめて欲しい!

「ユズ……っ」

 思わず、私は叫んでいた。はっとして口を押さえるけど、もう遅い。

「さ、佐々木主任、本当に誤解なんです。私達そういうんじゃなくて……」
「大河原君が慌ててるの、初めて見た」

 佐々木主任は面白そうに笑っているだけで、聞く耳を持ってくれない。
 そして仕事仲間達は、慌てる私を物珍しそうに見ている。

「大河原さん、そういうことなら一言あっても良かったのに」
「そうそう」
「皆さん、本当に、誤解なんです!」

 真っ赤になって否定するけど、この事態を招いたユズはけろっとしている。

「あ、大河原さん、こっちに座らない? お酌は私達がするから」
「そうそう、さ、こっち」
「ちょっ、先輩!?」

 先輩達が、そそくさと私の手からお酒を受け取り、私を無理やりユズの隣に座らせた。

「どういうつもりですか!?」

 小声でユズに文句を言うと、ユズは目を細めて、

「皆が事実を知ってれば、噂に惑わされることもないだろうと思ってな」
「っっ」

 事実って、事実って何!

「俺が杏奈に惚れてるって事実な」

 私の心を読んだかのように、ユズがにっこりと私に笑いかける。

 この男……。