通じないどころか


「当たり前ー」


なんて笑ってる。

もう完全無敵。

勝てる人なんている?

……僕は勝てません……

食器も箸も、朱里ちゃんの好みのものをどんどん入れて、そのまま自転車売り場まで直行。


朱里ちゃん、目がキラキラしてますよ。

あれこれ品定めをしながら、たくさんの自転車の間をスイスイ。

カートを押してる僕に見向きもしない。


「これにしようかな?」


朱里ちゃんの視線の先には、真っ赤な自転車。

あ、赤ですか?

フレームも荷台も真っ赤ですよ?


「これにする!」

「決めるの、早くない?」

「そうかな?こういうのは第一印象が大事なのよ」

「そうかな?」

「そうなの!」


朱里ちゃんの買い物は、男前だ。

僕ならすごく悩むのに、次々決めていく。

その姿には迷いが一切ない。

そういえば……

僕が一緒に住むって決めたときも、少し迷ってはいたけど、わりとあっさり決めてたっけ。

朱里ちゃんの中じゃ、結構迷ったとは思うけど。


「じゃあ、自転車の手続きしてくるねー」


店員と去って行く後ろ姿は、やっぱり凛としている。

笑い上戸で、食べるのが好きで、頑固だけど、男前な僕の魔法使い。


「やれやれ……」


僕もまた、重くなったカートを押してレジへ向かった。