今日の話題は絵本。

きっかけは、“しろいうさぎとくろいうさぎ”。

朱里が好きだといった、あの絵本。


「……主人にプロポーズされたときにね、渡されたの……」

和かに笑うお客さんの顔は、きっと朱里が年を重ねて幸せだったら、こんな風に笑うんだろうな。そう思わせるような笑顔だった。


プロポーズでこれを渡したご主人に会ってみたい。


奥さまにこんな幸せそうな笑顔をさせることができるなんて、きっと素敵な男性なんだろう。

僕には叶わないことだけど……



「…――で?颯太くんの好きな絵本は?」


絵本を抱えたまま柔らかく笑う奥さんに見とれてて、話を聞いてなかった……

恥ずかしい……


「ぼ、僕ですか?ぼくは……」


その時、窓の外に視線を感じた。

誰かが僕をジッと見つめる視線に……

この場所を知っているのは、田中室長しかいない。

室長か?とも思ったけど、室長ならサッサと入ってくるだろうし……

誰だろう?

新しいお客さんか?


そう思って窓へ視線を移すと……


「あ……」


そこには、常連のお客さんに背中を押され、一歩ずつこっちに向かって歩いてくる朱里が目に入った。