一歩。また一歩。

ドアに近づく度に、颯太の顔が苦しそうに歪む。


そんなに……会いたくなかったの………?

私が来たことは、迷惑だった?


「…――このまま……帰り……ます」


それだけ言うと、私は来た道を走り出した。

自転車のことなんてすっかり忘れて……

ただこの場を離れたかった。

颯太を困らせることはしたくなかったから。




颯太、会えて嬉しかったよ。

もう二度と来ないから、安心して。


颯太、大好きだったよ。

会えない間も、田中さんがいてくれたときも。

ずっと、ずっと……

颯太だけが好きだったよ……




どれくらい走ったのかな?

颯太の店からはだいぶ離れたと思うけど……

やっと歩き出した私の後ろから、呼ぶ声が聞こえた。



「…――朱里!」


タッタッていう足音が近づく。

振り返りたい。

でも、怖くて振り返れない。

ずっと聞きたかった声……

あの声で呼ばれるの、好きだった。



「朱里!待って!」


呼ばれる度に涙が零れる。

あんなに苦しそうに顔、歪めてたのに……

何で追いかけてきたの?


苦しくて、辛くて、颯太の声が聞こえないふりして歩き続けた。

でも……


「…やっと追い付いた……」

息を切らした颯太に、腕を掴まれた。