父はその頃、出版社で編集長をしてた。

祖父はその出版社の社長。

二人とも忙しかったけど、私との時間を大切にしてくれる人たちだった。

特に父は、母親がいないことを負い目に感じさせてはいけないって、一生懸命私を愛してくれた。

一緒にいられるときは、本当に可愛がってくれて、よく遊んでもらった。


ただ、母の事は良く言わなかった。

だからかもしれない。

作家だった母を良く言わないなら、私が書いてることを知ったらきっと怒る。

だから言えなかったのかもしれない。

反対に、祖父は母の事を“いい作家だった”って誉めてくれた。

“わかるときが来たら、読んでみるといい”って、母の本は全部、祖父が持っていてくれた。


だからかな。

私が書いたお話全部、祖父に読んでもらってたの。

でも、結構ダメだしされた。

子供の書いたものとか、孫の書いたものって言う甘えを許してくれなくて。

何度も書き直したりしてた。


「朱里ちゃんは嫌じゃなかったの?ダメだし。」

颯太さんの目が、悲しそうに歪む。

「嫌って言うより、悔しかった……かな?祖父を納得させるものが書けない。それが悔しかった。」

「そう……それで?」

優しく促され、私はまた話し出す。



中学を卒業する頃になって、その頃には祖父は会長、父は社長になってたんだけど、ようやく祖父のダメ出しも出なくなって…

“本格的に応募してみないか?”って、ライトノベル大賞の話をされた。

もちろん父には内緒で。