《短編》家出日和

本日快晴、絶好の家出日和。


思わぬ収穫ばかりがあったことだし。


今日のゲームもあたしの負けだったけど。


それでも良いよ。



「…いい加減、ハサミの場所くらい覚えてね?」


『覚えてるよ。
引き出しの一番下だろ?』


「違うよ。
一番上って何度も言ったじゃん。」



本当にこの人は、いつまで経ってもどーしようもないけど。


まぁ、こんな人に付き合ってあげられるのなんてあたしくらいだし。



「…良いよ、もぉ。
覚えられるまで一生言っててあげるから。」


『ははっ!
プロポーズ返しみたいだな。』



そうだよ、馬鹿。


本当にこの人は、どこら辺があたしのことを分かってると言えるのだろう。



『あっ、そーいや時計なくなったんだけど。
亜里沙見なかった?』


「…なくなったんじゃなくて、あたしがちゃんと仕舞ってあげてんの!」


『…そっか。
やっぱ亜里沙居ねぇとダメだな。』



まぁあたしも、俊ちゃんのことなんて何もわからなかったし。


お互い様、ってことなのかな。


腕枕をされるベッドの中。


部屋はすっかり宵闇のとばりに包まれていて。


だけどあの日と同じで、寂しくなんてなかった。


長く長く遠回りして。


だけど全部、大切な大切な日々だったね、俊ちゃん。














END