《短編》家出日和

『…一回しか言わねぇから、よく聞いとけよ?』


そう言って俊ちゃんは、あたしの頭をグシャグシャにした。


穏やかな風に乗って、慣れ親しんだ俊ちゃんの煙草の煙が微かに香る。



『責任取ってやるから、安心しとけ。』


「―――ッ!」



何でこの人は、こんな状況でも上から目線なんだろう、とか、

何でこの人は、こんな言い方しか出来ないんだろう、とか。


そんな風に思うと、何だか泣いてる自分が馬鹿馬鹿しくなった。



「…何それ?
告白だったら、ちゃんと言ってよ。」


『アホか。
プロポーズだっつーの。』


「―――ッ!」


瞬間、噴き出しそうになって。


急いで口元を押さえると、暗闇の中でもはっきりとわかるほどに、

俊ちゃんの顔が気まずそうで。



「…赤くなってる…?」


『うっせぇ。』


俯いた俊ちゃんは、そのまま地面に煙草を落として足で消した。



『とにかく、閉園だし帰るぞ。』


そう言って俊ちゃんは、先に立ちあがって。


仕方なくあたしも、同じように立ち上がった。


俊ちゃんが左手であたしの荷物を持ち、

そして空いた右手を後ろ手に差し出してきて。


諦めたようにあたしも、それに自分の右手を重ねた。


懐かしさばかりが込み上げてくる。