慌ただしかった春も、ジメジメとテンションの下がる梅雨も、

いつの間にか日々の生活を繰り返す中で過ぎて行った。


受験生って立場なのに、夢も目標もないのに焦ってもいない。


焦ってももぉ、勉強を取り返すことは困難なので、

適当に就職でもしようと、はなっからあたしは、そんな調子。


ダメダメだった期末テストも終わり、夏休みに突入。


高校最後の夏となった。



さかのぼること昨日の晩。


午後7時ジャストに、ドーンと夜空にこだました音。


それと同時に、大輪の花を咲かせる夏の風物詩。



『今年も無事に始まったみたいだな、花火大会。』


そう言って俊ちゃんは、今しがたあたしが出したビールを片手に、

ベランダに向かった。


遠くにある高いマンションが邪魔してる所為で、半分くらいしか見えないけど。


感動というよりは、もどかしいばかりの気持ちになってしまう。


だから別に、あたしは見たいとも思わないのだ。



『亜里沙も来いよ。』


だけど呼ばれ、仕方なくあたしもチューハイ片手にベランダへ向かう。


下より少しだけ冷たいのであろう風に揺られながら、

手に持っていたそれのプルタブを開ける。


花火の音と混じりながらプシュッと響いた小気味良い音に夏を感じながら、

レモン味の炭酸を流し込んだ。


隣に居る俊ちゃんは、煙草の煙を夜空へと吐き出しながら、

ただ正面にある半分だけの花火を見つめ続けていた。



『来年の夏までに、あのマンションにでも引っ越そうかな。』


独り言のようにそう呟いた俊ちゃんは、

指差す邪魔なそれからあたしへと目線を移し、

冗談とも本気ともわからない顔で少しだけ笑った。



「…年に一度の花火のために引っ越すなんて、馬鹿げてるよ。」


それだけ返し、チューハイを口に含みながらあたしは、

その視線から逃げるように正面へと戻した。